Firelessmoon

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2006/01/08(Sun)

Creation 01/09(03:57:32)

 ──100のお題より、#3「音楽」

『賑やかな音楽』。
 その日の夜の自室での出来事を振り返ってみて、何となくそんなことを思った。
 そしてその始まりが──。
 ほんの数刻前に僕の思考はさかのぼっていく。

***

「兄貴? 入るよー」
 そんなことを言って入って来たのは僕の妹。ああ、えっと、昼間一緒に映画を見たのとは別の。つまり、僕には二人妹がいる。
「まだ入っていいって言ってないでしょ。で、用?」
 なんて苦笑しながら振り向いて尋ね返す。
「用もなく兄貴の部屋に入るかっての。借りてたCD返すのと、またなんか貸して、っていう」
「あー、そういえば。毎週のことだけどよく忘れるや」
「はいこれ」
 手渡されたのは四枚ばかり。こんなに貸してたかなぁなんて思いながら、ジャケットを見ると確かにそれは僕が貸したCDだ。
「ホント、忘れっぽいよね。で、まさかとは思うけど……持ってくるの忘れてたりしないよね?」
 毎週僕が家に帰るとき、僕は家にあるCDを何枚か持って帰る。もともと自分で聴く為だったのだけど、あるとき部屋で僕がそれを聞いたら彼女が気に入って貸してくれっていう話になったという訳。
 それ以来、毎週帰ってくるたびに彼女にCDを貸している。大抵は僕のオススメを適当に見繕って持っていくのだけど、ときどきそれを忘れてしまうのだ。
 忘れたときはどうするか。
「まぁ、それでも自分で聴く分は忘れないから何も貸せないってことはないよ」
「……あのね」
 妹は呆れ顔。
 そう、僕は余り記憶力はいい方ではない。いや、正直な話、悪い。
 それでも毎週のこのやりとりが欠かされないのは、僕が自分で聴く分だけでも、と思って毎週用意をしているから。自分でやることは忘れないのだ。自分勝手な話だけど。
「ま、いつものことだけどさ」
「ところが今日はちゃんと忘れずに持って来てる訳さ」
 鞄からおもむろに僕は何枚かのCDを取り出して言う。
 ジャンルはいろいろ、邦楽洋楽も不揃いな数枚のCDアルバム。
「めっずらしー!」
「あはは……否定できんしなぁー。あ、珍しいっていうと、ラインナップ。ちょっと趣向を変えてみた」
 受け取る妹。一枚一枚眺めていく。
「ふーん……」
 何か
「ちょっと聴いてみていい?」
「どうぞ」
 僕が答えるまでもなく、彼女はコンポのディスクトレイにCDを収めていく。

***

「ところでさー、兄貴」
 一通り聴き終え、そのどれもが気に入ったのだろう、渡した数枚のCDケースその全てを持って退出しようとした妹が、不意に話題を振る。
「──真由ちゃんと何かあったでしょ」
「え?」
 真由。僕の……彼女、というべきか。断言するのは少し恥ずかしい。
 って、ちょっと待って。何だって?
「……いや別に」
 気付……かれた? いや、まさか。
「ん、あった訳だ。いや、みょーに嬉しそうだなーとか」
「!」
 気付かれてる!?
「図星だ。あーあー、暑苦しいから私は退散しますねっと」
 そそくさと部屋から出ようとする妹を、
「何で分かったの?」
 何とかして引き留める。これは由々しき事態なんだ!
「顔見てれば分かるって。ま……決め手はCDのラインナップかな。これ普段通りだったら、ちょっと断言できなかったかもね」
「断言できないってことは」
「イコールうすうす勘付いてみたり」
 いたずらっぽい笑みをたたえたその顔は、生来が小悪魔的な面立ち、それをより一層際立たせるものになっていた。
「……はぁ」
 零れるのは溜め息だけ。
「多分かーさんも気付いてるよ?」
 そこに追い討ち。
「!」
 溜め息すら出ない。
「あは、じゃ私は惚気られないうちに寝よっかなーっと」
 曲の山場が
「んじゃ、おやすみ兄貴」
「おやすみ」
 静寂に包まれる部屋。
「……女って怖いな」
 つくづく実感しては独りごちてみる。
 当たり前ながら答える相手は誰もいない。
 後はただ静寂だけが部屋の中を支配した。
 が、曲はそこで終わりじゃなかったらしい。
 ノックの音でフェードアウトしつつあった時間の流れが再度動き出す。
「おにいちゃん、起きてる?」
「ん、あー起きてる起きてる」
 もう一人の妹だ。半開きのドアから顔を覗かせ、おずおずと尋ねる。
「真由おねえちゃんと、何かあったってホント?」
「ぶっ」
 思わず吹き出した。
「いいから寝てください……」
「はぁい」
『coda』は追い討ちだった。

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