Creation 01/07(00:05:53)
休日の過ごし方を尋ねられて、僕が答えたのは何だったか。
確か家でゆっくり休む、だっただろうか。とにかく外で遊んだりはしないって答えたのは間違いない。
で、それは別に外に出るのが面倒な訳じゃなく、外に出るよりは家で過ごしたいと思うから。だっていつも外に出ているから。
街に遊びに行くのは放課後、学校帰りについでにっていうことが多い。友人と遊ぶのもやっぱり放課後、学校帰りについでにっていうことが多い。
ところが、そういう訳だから、というとそれもちょっと違うんだ。
家でゆっくり休む。これは実は正しくない。ゆっくり休むのは今いる家じゃない。実家だったりする。そして更に加えると、ゆっくり休むのでもない。家族の顔を見て、家族と一緒に過ごす。
これがいつもの休日。毎週土曜日のこと。
「ただいま」
そして、今しがた我が家に着く。たった一週間なのに、ここはそれでも何だか懐かしいなと感じる。
靴を脱いで家へ上がって、廊下を通り居間の方へ。
ドアを開ける。
同時に飛び掛って来る華奢で小柄な身体。
「おかえりなさいっ」
「ただいま」
僕の、妹。
──100のお題より、#2「椅子」
「元気してた?」
「うん、ばっちり!」
何歳離れているんだったっけ。十までは違わなかったと思うけど、それくらい離れていたかな。
僕がもうすぐ二十歳で、妹がまだ九歳。ああ、やっぱり十歳違うのか。
「おにいちゃんは、元気してた?」
「ん。そこそこ」
そう返事をすると妹は何故だかむくれた。
「違うー、そこは、ばっちり!って答えるのー」
どうやらそこまで元気じゃなくても元気だと答えなきゃいけないらしい。なるほど、彼女にしてみれば帰ってきた兄がしょげているのはつまらないのかもしれない。
あるいは、兄には元気でいて欲しい、とか。
……健気な妹だ。
「そっか、じゃあばっちり!」
「よろしい」
胸を張って満足そうに頷く。
「じゃ、テレビ見るのー」
「それよりお昼ご飯、お昼ご飯」
「ええー、一緒にテレビ見るのー」
「お腹空いてるからね。母さん今日も仕事でしょ? 僕が作んないと食べれないよ?」
「うぅー」
***
お昼ご飯の焼きそばを食べて一服。
妹は幸せそうに僕の作った焼きそばを頬張っていたのだけど、ああいうのっていいなぁと思う。幸せなことだよね。
で、その彼女は食卓から居間にとと、と早足で向かい、こっちを振り向いて手招き。
「今度こそテレビー」
でも土曜日のこの時間、面白い番組ないんだよね。
「ちょっと待っててね」
テーブルの足元に置いた背負い鞄を開け、中身を取り出していく。
「こ、これ何ー、ねぇ、おにいちゃん?」
取り出したのは長さもいろいろなケーブル類とか、無機質なシルバー外装の外付けハードディスクドライブとか。
機械に明るい人なら分かるだろうけど、そうでない子供にとってはまるでSFに出てくる秘密の道具のように見えるのかもしれない。
妹は目を輝かせ、興味津々といった顔でそれらを眺めている。
「まぁまぁ、ちょっとお待ちよ」
全部取り出したところで、最後に鞄の中で一番スペースを取っているノート型のPCを取り出す。これが一番重たかった。
それでも学校で支給されているやつだから、高校時代に持っていたものよりは随分軽いけど。軽くてハードディスクの容量も多いしCPUの性能も高いし……ってまぁそれは別に今はどうでもいいか。
「これ、いつもおにいちゃんが持って来てるやつー」
「うん。パソコン」
床の上に置いて、開いて、ACアダプタを繋ぎ、そのプラグをコンセントに。次いで、USBケーブルを接続。それで外付けHDDと繋いでやる。今度は映像端子のついたピンプラグケーブル。これでノートとテレビを繋ぐ。
最後に、PCの電源を投入。
「さ、これで準備はできた」
「わくわくー」
テレビをつけて、チャンネルをビデオに切り替える。画面は真っ暗。
「何にも映んないよー?」
「まぁ、まだまだ待った」
OSが起動して、テレビの液晶にPCと同じ画面が表示される。
「もうちょっと待っててねーっと」
タッチパッド上で細かい操作。それをじーっと見守る妹。
これ。
休日はこういう、穏やかなのがいいんだ。
「できた! さ、画面見ようじゃないの」
「?」
きょとんと僕の顔をしばし見つめた後、テレビの画面を見る。
そして、
「わぁ!」
「パソコンがビデオデッキになりました、ってね」
画面に映し出されたのは映画。
アニメとかでもいいかなぁって思ったんだけど、僕好みのアニメは多分子供向けじゃないだろうから。重いし暗いし。
「この時間ってあんまり面白いテレビやってないでしょ? だからね」
「お兄ちゃんすごいすごいー! 博士みたいー!」
はしゃぐ妹を見てると重たい思いをした甲斐があるというもの。
「さ、映画、映画」
持ってきたのはいろいろあるけど、今再生したのはバックトゥザフューチャー。SF繋がりってことでね。
「ふぁぁぁ……」
妹はとにかくすごいらしくって、別に映画は普通なのにこうやって見れることがすごいんだろうけど、とにかくすごいんだっていう顔をしている。
よく分からないけど、多分そのまま、とにかくすごい、っていうのが一番しっくり来ると思う。
「さ、そんなところで見てないで、テレビの正面で見よう」
僕はテレビの前に腰を下ろして、あぐらをかいて手招きを。
「……うん」
妹はちょっとだけ恥ずかしそうにしながら、僕の座るところへやって来る。
週末、僕は椅子になる。妹が座る人間椅子。
妹は幸せそうな顔でテレビをずっと見ているんだ。
僕は抱きかかえるようにしてみたり、頭を撫でたり頬を突付いたりしたりして。
妹はくすぐったそうに、でも嫌がらないでいて。
幸せそうにはにかんで。
それが僕には嬉しいんだ。とても。
これが普段家にいない僕の、精一杯。妹の為にしてあげられることだから。