Creation 01/05(05:35:42)
100のお題より、#1「暁」
基本的に夜型だ。
自分を動物にたとえると、と尋ねられていつだったか僕はこう答えたことがある。
──僕は多分フクロウじゃないかなぁ。
夜型っていうだけじゃなく、他にもそう思う根拠はあって、夜目が利くし、知識欲が強かったり。っていうのはフクロウは知恵を司る鳥だって言われているから。
そういう訳で、今日もまた夜遅くというよりは明け方になるまで起きていた。
窓の外を見てみようか。カーテンを開け、窓も開け放って。
ひんやりとした、それでいて爽やかな風が部屋に入り込む。
まだ日は昇らない。だけど空は少しずつ深い青から橙色に移り行きつつある。
青と橙に混ざり合う、この時間の空が僕は好きだ。
「ん……」
ふと、隣から寝言のような、寝息のような曖昧な声が漏れる。
起こしちゃったかな。
「朝……?」
「もうすぐね」
「……ん、ふぁ……相変わらず早いよネ」
やんわりと身体を起こそうとして、彼女はタオルケットを手繰り寄せる。
窓の外を見たままだったからどういう顔をしてたかは分からないけれど、多分ちょっと恥ずかしそうにしてるんだろうな、と思ってつい口元がほころぶ。
「いや、起きてたんだ」
「ずっと?」
「ずっと」
「あれ、あたしって……もしかしてすぐ寝ちゃった?」
「そんなことはないよ」
具体的にどうだったかは言わないけどね。
「……そ、そっか」
「それより、見てみて」
僕は彼女を振り返り、窓の外を指差して言う。
「ん?」
タオルケットに身を包んだ彼女は、ゆっくり身体を起こし、僕の隣から窓の外を見る。
「うわぁ……」
鮮やかなブルーとオレンジがせめぎ合う空の下。空と大地の間、蠢くような街並みが作る黒い凹凸は、次第にその輪郭に光を帯びていく。
「僕ね、これが好きでさ」
「うん」
ゆっくり、ゆっくりと。
赤橙の空は明け白んで黄色に染まる。濃紺の空は明け白んで群青に染まる。
「朝になる直前のさ、暁って言うんだけど」
「うん」
夜明け前の薄暗い中を線路を貨物列車が駆けて行く。まだ始発電車も出ない時間。
「時間にしたらすごく短い。太陽が出たらそれは暁じゃなくて夜明けだから」
「そうなの?」
「昔の人はそういうふうに使ってたみたいだね。でさ」
東の空の下の街の影、その輪郭の一部が膨れ上がる。
そうして大地の底から灼熱を帯びた怪物が這い出でて来るんだ。
夜の闇も静けさもその怪物が全て喰らい飲み込んでしまう。そして怪物の熱に浮かされて、人間はしばし狂騒に興じるんだ。
「ほら、もう夜明け」
「うわぁぁぁ……!」
金色の怪物がとうとう顔を出す。世界を眩い閃光が照らしていく。
「昔の人はね」
「ん?」
「夜が長くて長くて、朝が来るのが待ち遠しかったみたいだね」
「そうなの?」
「よくさ、『このプロジェクトが成功したあかつきには』って言うじゃない」
「うん」
「何か待ち望んでいたことが達成された瞬間の比喩にこの『暁』が使われるんだ。ってことはさ、きっと暁それ自体、待ち望まれていたものなんだ」
「ふぅん、そっか……なるほどネ」
そこで僕はとびきりいたずらっぽい笑みを浮かべて彼女を見る。
「僕にとってはむしろ昨夜が暁だったんだけどね」
「え?」
そうして僕は唇をそっと重ねる。太陽に照らされた二つの影が一つになる。
しばらくして、二つに。それから僕の胸元に頭を当てるようにして彼女が寄りかかって来る。呟くような、囁くような一言。
「……ばか」
そっと抱き締めて、もう一度キスを。二つの影は再び一つになった。